この日も。
サウナ室に入るとボスがいました。
作戦を立てるため、しばらく彼女を観察することに。
ボスの両隣の席は今日も空いています。
そして、誰かがそこに座ろうとすると「○○さんの席だからダメ!」と相変わらず阻止するボス。
どうやら、「自分の隣に人を座らせたくない」といった感じです。
周りの人を巻き込んでの汗自慢も絶好調…。
相変わらずだなぁ。
そんなに広いサウナ室じゃないんだから、席を1人占めしないで欲しい。
…さてさて。
このボスにどのように話したらいいだろう?
正論を言っただけでは、感情的になってヒステリックに言い返されるだろうなぁ。
とは言え、やんわり言うだけじゃきっと通じないだろうし…。
あれこれと策をめぐらすこと10分。
作戦がようやく定まりました。
そのためには、ボスと自然に話しやすい位置に座り直す必要があります。
今、そのベストポジションの席には若い女性が。
一度、サウナ室から出て、その女性が出てくるのを待つことにしました。
入れ替わりに入って、その席をキープすることから始めよう。
数分後、遂にその時がやってきました。
女性と入れ替わりに素早くサウナ室に入り、ボスの向かいの席に腰掛けます。
ここまでは作戦通り。
1分くらい経過した時、意を決してボスに話しかけてみました。
「すごい汗ですね!体質なのか、私は汗がなかなか出ないんですよ。羨ましいです」
するとボス。
「そうでしょ~!!アタシは汗がすごい出るのよぉ。」
「いいですねぇ」
「こないだも、汗が引かなくてね…(略)」
「汗が出やすいのは、それだけ代謝が良いってことですよね」
「あら、やっぱり~?」
全くもって不毛な汗バナシを繰り広げること5分。
ボスの機嫌が良くなってきたようです。
相手の心のドアを開くためには、「同意」や「共感」がとっても大事なんですよね。
会話をしていると、サウナ室に新人さんが入ってきました。
座る席を探してキョロキョロしています。
そっとボスの顔を盗み見ると…
さっきとは別人のような形相で新人さんを睨んでいるではありませんか!!
どうやらまたスイッチが入ってしまったようです。
そして…。
新人さんがボスの隣の席(ここが一番座りやすい位置にある)に座ろうとした、その時。
「ここはマスダさんの席だから、座れないよ!」とボス。
ここだ!
間髪を入れず、私は言いました。
「…あれ?マスダさんってさっきの女性ですよね?もう上がったみたいですよ」
なるべく穏やかな口調で、笑顔を浮かべて話します。
心の中では冷や汗たっぷりですが
「(たじろいだ表情で)……あれ?そうだった?」
「はい、荷物を持って脱衣所に入っていくのを見ました」
もちろん嘘です。
マスダさんなんて人は知らないし、きっと実在すらしないんだと思います。
ボスはきっと混乱しているはず。
『この子、いったい何を言い出すの?マスダさんを見た??誰かと勘違いしているんだろうか?それとも……』
私の顔をじっと見ながら無言になるボス。
結局、新人さんは違う席に座ったようです。
数分後、また新たな人が2人(親子かな?)入ってきました。
娘さんらしき人のほうが、またしてもボスの隣に座ろうとします。
「…」
反射的にボスは一瞬、口を開きかけましたが、そのまま黙りこみました。
娘さんがすとんと席に腰掛けます。
つ、ついに…。空かずの席が解禁に…(涙)!
熱さに耐えかね、サウナ室をあとにする私。
水風呂に入っていると、ボスも中から出てきました。
浴槽に入ったボスを見て、私もさりげなく湯船に浸かります。
ボスに気付いたふりをして隣に近寄り、挨拶をしました。
お約束の「汗の話」から入り(笑)、世間話再開です。
「昨日はパクヨンハさんの1周忌でしたね…」
ボスの好きな韓流スターはパク・ヨンハ。
狭~いサウナ室。
あれだけ大きな声で話していたら、聞きたくなくても聞こえてくるんですもん。
私の親友にもヨンハさんの大ファンがいるので、予備知識が多少なりともあります。
しばらく楽しくおしゃべりをした後、いよいよ本題を切り出してみました。
「ここのサウナで、場所取りをする人がいるって噂を聞きました。さっきみたいなことをしていたら、○○さん(ボスの名字)も疑われちゃいますよ。たとえ誰かに頼まれたとしても、安請け合いしないほうがいいと思います。場所取りなんてクダラナイことしている人…なんて言われたらバカらしいですよ。」
この話題の最中、終始無言だったボス。
間接的にやんわりと言ったつもりだけど、やっぱりわざとらしかったかな?
自分の娘くらいの私にこんなこと言われて、機嫌を損ねたかも。
まぁ、それならそれでいいや。
少しでも心に響いてくれたら、改善の余地があるかもしれない。。
いろいろと思索にふける私にボスがボソッと。
「気を付けるわ。面倒なことに巻き込まれるのはごめんだから」
私がすでに面倒に巻き込まれていますが。
即座にそう呟きましたが(心の中で)、でも反省の言葉らしきものが聞けたので満足です!
すぐにボスの行動が変わるかどうかは疑問。
だけど、まずは第1歩を踏み出せたのではないでしょうか。
ある程度、心を開いてもらったあとに本題を切り出す。
相手のプライドと人格を尊重した言い方をする。
キツイことを言うときほど、柔らかい口調と表情で。
公共の場で迷惑をかけている人の場合、「周囲が迷惑だと言っている」「みんながそう話している」というように客観的な物言いをする。単なる個人による個人批判だと感じさせないように、嘘でもいいからギャラリーを上手く利用する。
…これらが今回、私が気を付けた点です。
このボス。
今後どういう行動をするのか、機会をみて続報をお伝えしますね