塾長ブログ

あたたかな手袋。

先日、ゆ~の散歩をしていた時のこと。

家から出発した直後、背後から突然、「こんにちは!」と声を掛けられた。

振り返って声の主を確認。

見た目は20代前半の男性。

私を見て照れくさそうに笑っている。

『…さて?…誰だったっけ??』

私の戸惑いが伝わったのか、その男性は慌てて話し始めた。

「数年前、あなたのお母さんに手袋を貸していただいた○○です」


うんうん!!

そんなことがあったっけ。


生前、母は週に数回スーパーのパートに出ていた。

仕事を終えて自宅に帰る途中の道で、新聞配達をしている少年を見かけた。

季節は真冬なのに、手袋を身につけずに新聞を配って歩いていたそうだ。

「は~っ」と真っ赤になった手に息を吹きかけながら仕事をしている少年。

見かねた母は、彼を呼び止め、

寒いのにご苦労様。これ、使って

と、自分がつけていた手袋を手渡した。

行き過ぎて振り返った母の目に、その手袋をつけて仕事をする少年の姿が映った。


翌日。

夜遅くに自宅のチャイムが鳴った。

私が出ていくと、見知らぬ少年が玄関に立っている。

警戒しながら名前を聞くと、「○○と言いますが、お母さんはいますか?」との返事が。

「もしかして隠し子が訪ねて来たのか?!」

…なんて、変な想像をしながらも(笑)母を呼ぶ。


母が出て行くと少年は照れくさそうに笑顔を浮べ、持っていた紙袋を差し出す。

中にはお菓子、そして母が貸した手袋が入っていた。

少年が帰ったあと、母は私たち家族に前日の経緯を話してくれたのだった。


…手袋のサイズ、小さくなかったのかな?

可愛いリボンもついていたのにね(笑)。

たぶん母は、

「手が冷たくてかわいそうだから、何とかしてあげたい!」という衝動が抑えられなかったんだろうな。

私の知っている母は底抜けに優しい人だったから。

でも、この少年も同じくらい思いやりがあると思う。

母の好意をしっかり受け止めてくれたこと。

お礼を言うためにわざわざ家を調べて訪ねて来てくれたこと。

私まで嬉しい気持ちになったのを今でも覚えている。



その少年が、すっかり大人になって目の前に立っていた。

「お母さんは元気ですか?」

との問いかけに、一瞬だけためらったあと「はい」と返事をした。



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