塾長ブログ

あの日の約束

私が小学生の頃の話です。

小学1年生の時、私にはみっちゃん(仮名)と言う仲の良い友達がいました。どこへ行くのも一緒の大好きな親友でした。2年生の春休みのこと。そのみっちゃんが、お父さんの転勤で海外へ引っ越すことになったのです。
悲しみながらも迎えた最後の日。二人でよく遊んでいたお気に入りの広場で、日が暮れるまで時を過ごした私たちは、ある約束をしました。
「日本に帰ってきた日、またこの広場で再会しよう。」と。
そして月日が流れ、小学5年生の夏。みっちゃんが帰国したことを先生から知らされました。その日のお昼前に帰国したそうで、来週からまた小学校に通うとのこと!
嬉しくて嬉しくて。
放課後、飛ぶように帰路につき、あの思い出の広場へと急いで向かいました。
みっちゃんはまだ来ていません。
土手に腰かけながら、私はみっちゃんを待ちました。久しぶりに会うみっちゃん。顔を見たらまず何て言おう。積もるほどの話があります。みっちゃんが外国に行く前に描いた絵がコンクールで入選し、私が代理で賞状を受け取ったこと。当時の担任の先生が転勤したこと。秘密基地に生えていたコクワの実が毎年変わらず美味しい実をつけていること。それから…!早く会いたいな。胸が踊ります。
ところが、なかなかみっちゃんはやって来ません。場所を忘れているのだろうか。もしかしたらどこか違う場所で待っているのかな…。徐々に不安が募ります。そのうち、空がオレンジ色に染まってきました。先程までせわしなく食べ物を巣穴に運んでいた蟻の姿もいつのまにか見えません。
辺りが薄暗くなり、少し怖くなってきた私はもう帰ろうと腰を上げました。…だけど、もしかしたら。帰国したよという報告をしに、親戚の家に挨拶まわりをしているのかもしれない。夕食の時間だからそろそろ家に戻ってくるかも。その前にここへ立ち寄ってくれるかもしれない。そう思った私は、もう少しだけ待つことにしたのです。
結局、みっちゃんは現れませんでした。
とっぷりと日が暮れてから帰宅した私は、母に激しく叱られました。「どこで何をしていたの?」と聞かれたので、「一人で公園で遊んでいた」と答えました。みっちゃんを待っていた。だけどみっちゃんは来なかった、とはどうしても言えなかったのです。
その日の夜、私は布団に入りながら声を抑えて泣きました。待つことの楽しさと辛さ。それを一度に味わった1日でした。
その後、みっちゃんと学校で再会を果たしましたが、「あの約束」に関して触れることはありませんでした。大好きなみっちゃんが私と交わした約束をすっかり忘れてしまったという現実を受け入れたくなかったのだと思います。あの約束はきっと夢だったのだ。当時の私はそう思い込むことにしたのです。
慣れない異国での生活。みっちゃんの立場になって考えると、どれだけ大変な毎日を送っていたか、今の私なら容易に想像できます。大昔に交わした些細な約束事など、キレイさっぱり忘れてしまっても無理はありません。みっちゃんを恨むことは勿論ありませんでした。高校も同じだったので、その後もずっと親しくお付き合いしましたよ。
だけど、何故なのでしょう。
小さな小さな棘がずっと胸に刺さっているような、忘れられない思い出なのです。
車の運転中、そんな昔話を娘のひかりにしていました。「そのあともみっちゃんとはずっと仲良しだったんだよ。」と話し終えて隣を見ると、助手席のひかりが泣いています。鼻を真っ赤にし、ポロポロと大粒の涙を流して。
ごめん、ごめん。
ママ、変な話をしちゃったね。
このエピソード。ダンナにも以前話したことがあります。その時のダンナも娘と同じように泣いていました。
二人とも優しいなあ(笑)。
あの頃の私と一緒に泣いてくれてありがとう。


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