先日、新札幌校で中学生に古典を教えていた時のことです。歴史的仮名遣いを現代仮名遣いに直す方法について説明していたら、こんな質問をされました。
(「うつくしう」➡現代仮名遣いにすると「うつくしゅう」になると教えたら…)
「えっ?!『美しゅう(うつくしゅう)』って現代語なんですか??」と生徒。
そうですよね。日常生活において、「美しゅう」なんて使わないですよね。特に北海道に住む私たちには程遠い言い回しです。
でも、「美しゅうていらっしゃいますね」などの言葉遣いは現代でもしっかり残っています。一部の地域では方言の1つとして普段から使っていますしね。
これは「形容詞のウ音便化」という文法です。実は、平成22年度の開成中学校(東京)の入試でも類題が出題されました。当時の私は、開成中志望の生徒を教えていたのですが、「今年あたり、変わり種の文法問題が出るかもね」とヤマを張って勉強してもらっていたらズバリ出たので今でも覚えています。
確かこんな問題でした。
次の言葉の下に、丁寧語である「ございます」を付けた時の言い回しを答えてください。
●例「ありがたい」➡「ありがとうございます」
①めでたい
②せこい
③さむい
④やばい
⑤おおきい
まず、形容詞に「ございます」を接続させるなら、その形容詞を連用形にします。形容詞の連用形は「~く」という形なのですが、これに「ございます」を付けると「~う」と、ウ音便化するルールです。
例えば、「低い」にございますを付けるのなら、低く+ございます…とした後、低くの語尾である「く」は「う(…u)」に変わります。
例外用法もあります。「く」の前の文字が「…a(ア)」である形容詞の場合、その「…a(ア)」を「…o(オ)」に変えて、語尾を「ou」とします。例えば「近い」という言葉。ございますを付けるにあたって連用形にすると「近く」。この「く」の前の文字が「か(…a)」なので、「ちこう(…ou)」。「ちこうございます」となります。
もう1つの例外措置。「美しい」のように、連用形の語尾が「美しく」(…iku)となる形容詞は(…yu)「美しゅう」(…shuu)となります。
以上のことから、解答はこうなります。
①めでたい
➡めでたく+ございます
めでとうございます。
②せこい
➡せこく+ございます
せこうございます
③さむい
➡さむく+ございます
さむうございます
④やばい
➡やばく+ございます
やぼうございます(普通はこんな言い回しはしませんが💦)
⑤おおきい
おおきく+ございます
おおきゅうございます
長々と説明しましたが、小学生にこんな知識は要らないと私は思います。こんな知識を知らなくても、学校側が出してくれている、
「ありがたい」+「ございます」が、「ありがとうございます」になるという例をヒントとしながら、どうやって「ございます」を付けたらいいのかを推測して欲しいのです。開成の問題作成者も、単なる知識を受験生に問いたいだけではなく、与えられたヒントを基にして思考し、答えに辿り着く力を求めているのだと思います。
「ありがたいの「たい」が「とう」になっている。他にも似たような例がないかな…「ございます」が付く言葉。あっ、「おめでとうございます」はどうだろう?「おめでたい」+ございます。やっぱり「たい」が「とう」に変わっている!じゃあ……」というように。
日常で使っている言葉から法則を見つけ、仮説を立てて検証してみる。
そんな姿勢こそ国語学習の真髄です。
普段から言葉に興味を持ち、わからない言葉を調べてみること。それも単に言葉の意味だけを調べるのではなく、語源や成り立ち、用法、類語、反意語など、多面的に調べるとよいでしょう。国語という教科は教科書が無くても、いつでもどこでも学習ができます。毎日耳に入ってくるあらゆる言葉。電柱の貼り紙や看板の文言。ポスターや店内案内板の表現…。テレビを観ているときも、買い物をしているときも、散歩をしているときだって、意識ひとつで勉強の材料は周りに転がっているのです。
様々なことに興味を持ってアンテナを拡げ、思考を日々深めていくことによって、国語力はぐんと向上するのだと思います。