先日、元教え子であり高校教師をしている子から連絡がありました。いえ、連絡ではなく質問ですね。この子は私を辞書代わりだと思っているみたいで、自分の勤務時間内によく質問メール(何せ25年前の教え子なもので…)を送ってきます。
今回の質問は、「どうぞジュウブンにお気をつけください。」の「ジュウブン」は「十分」と「充分」のどちらを使うのが正しいのか、というもの。
古文のテキスト作成で忙しかったので、数年前に書いたブログ記事をメールに貼って送りました。
こちらです(少々、加筆修正しています)。
十分と充分
どちらも「じゅうぶん」と読みます。そして、「何の不足もない様子」という意味においても全く変わりがありません。
ただ、私がアルバイトでライターをしていた時には、編集の方に 「十分」のほうを使うようにと言われていました。「充分」は「十分」の当て字であり、「十分」が正式な漢字表記だと。
ただし文脈上、時間の「十分(じっぷん/じゅっぷん)」だと読み手に勘違いさせるのを避けるために、「充分」を用いたほうが良いこともあります。
例を挙げますね。
「私は十分に厚着をして出掛けました。」
不足がないぐらいに着込んで出掛けたということを伝えたい文だとします。ところが、このままだと(時間の)10分に厚着をして出掛けた…とも受け取れてしまいますよね。そんな誤解を避けるためにも、この場合は、「充分」を使うのをお勧めします。
ところで、この「十分」と「充分」では意味も微妙に異なるのですよ。「十分」は、物量的に満たされていることを表す言葉で、「充分」は心情的に満たされていることを表す言葉です。
例えば、お隣さんに沢山のジャガイモを貰ったとします。もっと要るかと聞かれた場合には、
「いえいえ!もう十分にいただきました!」というように「十分」を用います。「量的」に満足しているケースだからです。
一方、気持ちが満たされたことを強調したいときには、「こんなに親切にしてもらって…。私は充分に満足しています」「お気持ちは充分いただきましたから 」などと「充分」のほうを使います。
ただし、先ほども記した通り「十分」がより正確な表記なので、公用文や正式な書面の場合は、「十分」で統一したほうが無難です。そこまで改まっていない文章や手紙、また、「こんなにも私の心は満ち足りていますよ。」「くれぐれもお気をつけくださいね。」などという気持ちをはっきりと相手に伝えたい時には、敢えて「充分」を使うと良いでしょう。
ぜひ意識して使ってみてくださいね。